糖尿病とは?
糖尿病とは、すい臓で作られるインスリンの量が減ったり作用低下により、長い間血糖値が高い状態が続く病気です。インスリンの分泌量の不足や働きが悪くなると、栄養分が細胞の中に取り込まれなくなり、血液中にブドウ糖などが増えます。この状態が”糖尿病”です。疫学
平成19年の国民健康・栄養調査によると、「糖尿病が強く疑われる人」が890万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」の1,320万人いて、全国に2,210万人いると推定されています。しかも糖尿病が疑われる人の約4割はほとんど治療を受けていないのが現状です。なぜ血液中の糖分が多いといけないのか?
長い間、血糖値が高い状態が続くと、動脈硬化が進行し、全身に色々な合併症を起こします。代表的な合併症が糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症・糖尿病性神経障害です。現在では透析の最大の原因が糖尿病性腎症で、失明の原因のトップが糖尿病性網膜症となっています。このような合併症を予防するためにも、治療が必要となります。
糖尿病の診断
以下のいずれかにあてはまる場合、「糖尿病型」と判定されます。- 随時血糖値 200mg/dL 以上
”随時血糖”とは、食事に関係なく採血をした際の血糖値です。通常採血は空腹時で行いますが、空腹時でも食事をした後でも血糖値が200mg/dlを超えている場合は、糖尿病型と診断されます。
- 空腹時血糖値が 126mg/dL 以上
何も食べていない、前の食事から10~12時間あけて採血をした際に血糖値が126mg/dlをこえている場合です。
- 75g ブドウ糖負荷試験で2時間値が 200mg/dL以上
クリニックで甘いジュースを飲んでもらって2時間後に採血した時の血糖値が200mg/dl以上の場合、糖尿病型と診断されます。
ただし、のどの渇きや多飲・多尿、体重減少など糖尿病の特徴的な症状がある場合や、ヘモグロビンA1C(HbA1c)が6.5%以上の場合、網膜症がある場合は、1回の検査で「糖尿病型」と診断されます。
糖尿病のタイプ
糖尿病には、以下のタイプがあります。- 1型糖尿病
膵臓(すいぞう)のβ細胞というインスリンを作る細胞が壊れ、体の中のインスリンの量が絶対的に足りなくなって起こるタイプです。比較的子供のうちに始まることが多いとされています。
- 2型糖尿病上記以外の方
インスリンの出る量が少なくなって起こるものと、肝臓や筋肉などの細胞がインスリン作用をあまり感じなくなる(インスリンの働きが悪い)ために、ブドウ糖がうまく取りこめられなくなって起こるものがあります。このタイプには、食事や運動などの生活習慣が関係している場合が多いとされ、わが国の糖尿病の95%以上がこのタイプです。
- その他のタイプ
遺伝子の異常や肝臓・膵臓の病気、感染症、免疫の異常、薬剤等で発症する糖尿病もあります。
糖尿病の治療について:食事療法
糖尿病の治療の基本は食事療法と薬物療法です。 食事療法でのポイントは”食べ過ぎない=適切なカロリーを摂取する”、”バランスのとれた食事をする”ということです。糖尿病の治療で食事療法についてお話をすると『先生! 私は食べるなということですか?』と良く言われます。
決して食事療法=食べないということではありません。色々な工夫をすると、多くの食材を取り入れた食事をすることができます。
また、運動療法で1日の消費カロリーを増やすと、その分食事の量も摂ることができます。食事と運動のバランスも基本となります。
- 適切なエネルギーの摂取
食事療法のまず第一歩として”腹八分”の量を心がけて下さい。『あと一口』を減らすことで、何と100kcalものカロリー摂取を減らすことができます。
最近はコンビニエンスストアやファミリーレストランなどでは、『カロリー表示』をしているところがほとんどです。自分が食べるもの・食べているものが何キロカロリーあるのかも確認しておきましょう。
では、1日の摂取カロリーの目安はどの程度でしょうか?
まず、標準体重を計算します。標準体重は、以下の計算式で計算できます。
標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)× 23
例えば、身長が170㎝とすれば、標準体重は1.7×1.7×23=66㎏です。
次に体重1㎏あたりの目安の摂取カロリーですが、デスクワークが多い、営業で外回りしている、という方は25~30kcal/kg程度を目安として下さい。
つまり、身長が170㎝の人の1日の目安の摂取カロリーは1,650kcal~2,000kcalとなります。
- 規則正しい食生活を
最近は朝食を食べない人がいますが、ぜひ1日3回の食事を摂るようにして下さい。一日2食にすると、一回当たりの食事量が増え、食後急激に血糖値が上がったり、栄養素の吸収が増し、体脂肪がつきやすくなったりします。
糖尿病の治療について:運動療法
運動療法の効果としては、- 血糖値を下げる
- 適正体重に体重をコントロールする
- 血圧を下げる
- ストレス解消・気分転換
糖尿病の治療について:薬物療法
薬物療法には『内服薬』と『インスリン等の注射』の2つがあります。SU剤
実は体内に血糖値を下げるホルモンは、1つしかありません。それがインスリンです。インスリンは、膵臓のβ細胞から分泌されます。SU剤は膵臓のβ細胞に直接作用してインスリンの分泌を増やして血糖値を下げます。SU剤は、空腹時の血糖値をよく下げるという特徴があります。作用時間や効き目の強弱などにより多くの種類があります。ビグアナイド剤
ビグアナイド薬は、肝臓が糖を作る働きを抑えると同時に、筋肉などでの糖の利用を促進して血糖値を下げます。ビグアナイド剤のみで治療したり、SU薬などと一緒に使うこともあります。αグルコシダーゼ阻害薬
αグルコシダーゼ阻害薬は、食物中に含まれでんぷんや糖分の分解・吸収を遅らせることで、食後の急激な高血糖(食後高血糖)を抑える薬です。空腹時の血糖値はそれほど高くなく、食後高血糖がある患者さんに効果的です。また、他の薬で空腹時の血糖値はコントロールされているにもかかわらず、HbA1cが改善しない患者さんにも、併用薬として使われます。インスリンを使用している患者さんにも、食後高血糖の改善が期待できます。速効型インスリン分泌促進薬
SU剤と同じように、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促す薬ですが、薬を飲むとすぐに作用が現われ、作用時間が短いという特徴があることから、α-グルコシダーゼ阻害薬と同じように、食後高血糖の改善を目的に使われます。比較的軽症の2型糖尿病の人で使用されます。作用時間(薬が効いている時間)が短いため、低血糖を起こしにくいとされています。SGLT-2阻害薬
最も新しい糖尿病治療薬です。腎臓から再吸収される糖分をブロックして血糖値の上昇を抑えます。あえて「糖尿」にして糖尿病の治療を行う薬です。DPP-4阻害薬
DPP-4阻害薬は、『インクレチン』というホルモンを分解する酵素の働きを妨げることで、糖尿病の治療をするお薬です。『インクレチン』というホルモンは、食後に十二指腸や小腸から分泌されるますが、血糖値が高いときにだけ膵臓に働きかけてインスリン分泌を促します。また、インスリンと反対に血糖値を上げるホルモン「グルカゴン」の分泌を抑えます。よって、インクレチンの作用を補うと、高血糖のときにだけ血糖値が下がる、という仕組みです。このような作用の特徴から、薬の副作用である低血糖を起こしにくいとされています。インスリン抵抗性改善薬
インスリン抵抗性改善薬は、肥満などでインスリンの効果が下がっていることを改善する薬です。他のお薬と一緒に内服することが多いです。インスリン療法
インスリン療法とは、インスリンを注射して糖尿病を治療する方法です。インスリン療法の治療が必要な方は、1型糖尿病と呼ばれる、もともとインスリンの分泌が少ない方や、2型糖尿病で内服薬で治療が難しい方が適応となります。”インスリンは嫌”という方がいらっしゃいますが、内服薬であまり糖尿病の治療効果が期待できない治療を続けるよりも、インスリン療法で適切な血糖値を維持することが非常に重要となってきます。また、一旦インスリン療法が始まっても、治療効果が十分に得られれば、再度内服薬で治療を続けることもできます。治療目標
糖尿病の治療の評価は、主に以下の2つで評価します。- 血糖値
血液中のブドウ糖の濃度。採血をした時の血液中のブドウ糖の濃度が分かります。食事から採血までの時間、食事量、摂取カロリーに比例します。
- HbA1c
赤血球とブドウ糖と結合しているものの割合をパーセントで表したものです。採血前1~2ヶ月間の血糖値の平均を表します。採血前の食事に関係なく測定されるため、糖尿病のコントロールの指標として多く用いられます。
糖尿病コントロールの指標
糖尿病の治療が上手くいっているかの指標は、上記の血糖値とHbA1cで評価します。 糖尿病の治療目標は、合併症を予防することです。合併症予防の観点からは、HbA1cを7.0%未満を目標とします。
空腹時血糖は130mg/dl未満、食後2時間血糖値を180mg/dlとします。
日常生活でのアドバイス
- ”食べる”ということに注目する
”食事療法”と言われるくらいですので、朝・昼・夜の食事にも注意しなくてはなりません。食べる量・食べるもの・調理方法にも心がけるようにして下さい。
- ”食べる”バランスを考える
毎日の始まりとして、朝食は必ず摂るようにし、昼・夜としっかり3食を食べるように心がけましょう。間食は禁物です。
栄養の偏りがないように、たんぱく質・脂質・炭水化物のバランスを考えて食べるようにします。『お昼は定食屋が多い』『コンビニ弁当が多い』という方は食物繊維が不足がちになります。お野菜中心の食事がおススメです。
- ”食べる量”のバランスを考える
仕事をしていると、どうしても夜の接待が入ったり、食べる時間が遅くなりがち、という方が多いのではないかと思います。
このような方は、ぜひ『日・週・月・年』の時間軸で食べる量を考えて下さい。
これはどのようなことかと言うと、1日の摂取カロリーを『日・週・月・年』で考えるということです。
1日の摂取カロリーは決まっています。その中でどのような配分で摂取カロリーを考えていくか、がとても重要になります。例えば、夜に接待や会食の予定が入っている場合、食べる量が多くなりますので、そのような日は朝・昼の量をセーブします。
「今週は接待続き」という方は、昼間にかつ丼や焼肉定食は食べてはいけません。夜に摂るカロリーが多いので、昼間は控えめの食事をして下さい。こうすることで1日の摂取カロリーを一定に保つことができるようになります。
このような考えで、摂取するカロリー・バランスを『週・月・年』のスパンで考えます。今週はカロリーが多めだったので、来週はちょっと少なめにしよう、とか、忘年会シーズンは毎年体重が増えたり、糖尿病のコントロールが悪くなるので、夏はカロリーを抑えめにして体重をちょっと減らしておこう、といった感じです。
この『日・週・月・年』で摂取カロリーを考えることで、体重コントロールが可能となり、糖尿病の数値も改善してくるはずです。
- 満腹で幸せを得ない
「お腹いっぱい食べる」ことで喜びを感じていませんか?
満腹に食べたときの多くはカロリーオーバーです。基本は『腹八分』。
腹八分で満足感を得るようにしましょう。
- 食に関する考えを変える
食事療法やダイエットの基本は「自分の食に関する考えを変える」ことが重要です。
忙しくて昼ごはんが食べれなかった時、”ご飯も食べる時間もなかったので、おなかペコペコ。ひと段落ついた時に腹いっぱい食べよう”ではなく、むしろダイエットにつながった、と考え方を変えてみるのも一つの方法です。
- 日常生活で今よりもカロリーを消費する
ダイエットしよう! 運動しよう! と一念発起してジムに通う必要はありません。ただでさえも多忙な皆さんですので、長続きしない方が多いのが現状です。
そこでお勧めなのが、日常生活でのカロリーを消費する、ということです。
例えば、朝出勤するとします。駅まで15分の道のりをゆっくり歩くのと、やや速足で歩くのでは、消費カロリーは全く異なります。またエスカレーターを使っていたのを階段にするだけでも、同じ2階に上がるのにカロリー消費が異なります。
また、電車に乗っていても座っているのと立っているのでは、その時間の消費カロリーが異なります。
このように、日常生活で今よりもカロリーを消費することは可能です。少しずつやっていくことが大切です。
浅草クリニックでの治療について
浅草クリニックでは、糖尿病専門医が治療を担当します。糖尿病外来は第2・3火曜日の午後です。診察を希望される方は、予約制となっておりますので、まずは一般外来を受診下さい。
当院での特徴は糖尿病だけ治療しないということです。糖尿病は全身の病気です。血糖値だけコントロールが必要ということではありません。合併症が出ていないか、心臓の方はどうか、血圧はどうか、眼底はどうか?
つまり、全身管理が必要です。また、栄養士による栄養指導を行っています。医者から「あれを食べたらダメ」「これを食べた方が良い」と言われても、好き嫌いがあったり、ライフスタイルの違いがあったりして、実践できないことが多いと思います。
クリニックでは、まず患者さんの食べているものを記載して頂き、栄養士とともにどのような食事をしていったら良いかを、時間をかけてアドバイスします。
糖尿病専門医と一緒に、総合内科専門医をはじめ、循環器内科専門医、眼科専門医、その他の専門医が一丸となって、総力を挙げて皆さまの治療を担当させて頂きます。
浅草クリニックで、一緒に治療を行っていきましょう
参考文献
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/tounyou/about.html
http://www.jds.or.jp/l